2026年7月24日

CDJ-3000Xインタビュー(後編)
時代を経ても受け継がれていくプロダクトデザイン

DJ機器の分野で世界トップシェアを誇り、世界中の音楽シーンで長きにわたって支持されたPioneer DJ のDNAを継承しながら、ブランド刷新とともに新たな歩みを進めているAlphaTheta(アルファシータ)株式会社。デザインで音楽人との交差点になることを目指して、ブランド・プロダクト・デジタルという領域を横断しながら、「信念」や「美学」を持ったプロダクトづくりを続けています。
 
その製品開発の背景には、意思決定のプロセスがあり、社長直轄の組織「デザインセンター」を筆頭に、生み出したプロダクトが支える体験や文化を重視して、開発にチャレンジしています。そんなAlphaThetaのフィロソフィーを紐解いていくインタビューシリーズで、今回はAlphaThetaブランドから2025年に発売した最新のフラッグシップモデル「CDJ-3000X」にフィーチャー。
 
デザインセンター長の三笠政之、プロダクトデザインスタジオ長の蔵本高弘、ブランドデザイン担当の山本義彦にCDJシリーズが担う役割やポジション、CDJ-3000Xのコンセプトや狙い、開発に至った動機などについて迫ったインタビューの前編に続き、後編では開発過程における紆余曲折のエピソードや、その背景にある意図を通して、CDJ-3000Xというフラッグシップモデルが描く現在と未来を紐解きます。
 

変化の時代に“先進性”と“安心感”の両立を図る
オンラインメディア時代のフラグシップ

CDJ-3000Xの開発において、CDJ-3000の延長としてデザインセンターがキーワードとして挙げたのは、「deepen(深める)」と「refine(洗練させる)」。実験的要素を含んでいたCDJ-3000に対して、オンラインメディア時代のフラグシップを完成させる──その意気込みで開発に臨みました。
 
「これまで対応していたCDがなくなり、USBを使わずともデータがクラウドを経由して届いてくるときに、目に見えない曲を扱う機材のデザインとして、どうあるべきか? そのときに物質っぽいマテリアルの質感をどんどん減らしていった方が、グラフィック側に出ているコンテンツとハードウェア側が真に融合できると考えました。CDJ-3000ではヘアラインだったアルミの質感をCDJ-3000Xではマットに変えるなど、物質感を減らして情報と融合を図ろうとしたのは、プロダクトデザインが意識したテーマです」(蔵本)
 
「CDJ-3000XはCDJ-3000と同じ画面内のデザインであったとしても、液晶が大きくなったことでパーツをそのまま移行すると小さくなってしまうので、同じに見えるようにパーツはすべて作り直しました。加えてアンチエイリアス(※画像内の文字輪郭に現れるギザギザを軽減する技術)について、プレイヤー1など固定で出す画像はピクセル単位だとぼやけてしまうので、すべて手作業で調整しています。ぱっと見では誰も気づかない、ここだけを切り取ると非効率なことに聞こえるかもしれませんが、対応前と対応後でDJの評価が変わりますし、DJの満足度を高めるために、高解像度の液晶に見える工夫を施しました」(三笠)
 

▲CDJ-3000(左)とCDJ-3000X(右)。

CDJ-3000Xを開発するにあたって、いつも以上に大切にした意見が、DJやプレイヤーたちから届く「現場の声」。それは開発段階においても、CDJ-3000Xをさらなる成長に導くエッセンスとなっています。
 
その中で見えてきたCDJの最大の特徴は、世代や音楽ジャンル、コミュニティの枠を超えて、幅広い層のDJに支持されているということ。時代に合わせた進化を望むユーザーもいれば、継承されてきた使い勝手を重視するユーザーもいる中で、CDJ-3000Xではオンラインの音楽メディアという目に見えづらい要素をUIとして視覚化した一方で、楽器としての操作性にはあえて大きく手を加えないことで“先進性”と“安心感”の両立を図りました。
 
「現状ではCDJ-2000NXS2やCDJ-3000でも満足しているお客さんもたくさんいらっしゃる中で、乗り換える理由を見出していくフェーズに来ていて。まだ変換期ですし、CDJ-2000NXS2からCDJ-3000に現場レベルで浸透するのに3・4年くらいはかかりましたが、CDJ-3000からCDJ-3000Xもそれくらいの時間がかかるのかなと。そしてその過程において、これからもっと現場の声が上がってくるのだと思います」(三笠)
 

AlphaThetaにおけるアイコンでインフラ
CDJ-3000Xが描く、これからの音楽の現場

CDJ-3000Xで実装自体は可能だったものの、あえて採用しなかった機能や仕様もありました。それは安易に世に出ているプロダクトに習う方法を選べば、CDJシリーズの文脈や魅力を失ってしまう可能性があるからであり、「選ばない」という判断を下す背景には社内での横断的な議論が鍵でした。
 


「難しいのが、なんでも“前に習え”でやりすぎるのも良くないということ。ほかと同じに合わせればいいと安易に考えてしまいがちですが、それでは進化はしなくなりますし、そこは3歩進んで2歩下がるような気持ちでやり続けるのが地に足がついた進化かと。開発にあたっては、一見すると無駄や非効率に見えるようなことにも真摯に取り組み、限界を探すような作り方をしてきたと思います」(三笠)
 
「フロントにあるNFCタッチパネルは初めて搭載した機能で、タッチするエリアをどうデザインすればユーザーは困らずにログインできるのかは、我々としても知見のないところでした。NFCのロゴだけか、スマホの絵か、はたまたスマホを手で持っているような絵か。やはり絵を描きすぎるとそこだけ漫画チックになり、プロの使う楽器と考えたときにイメージとは違うなと。結果的には、rekordboxがインストールされたスマホの絵を採用。幅を持たせてデザインを検証しました」(山本)
 


現在は、デザインセンターが主体的にリードして取り組む課題も増えており、領域を横断しながらプロジェクトに取り組む社内風土を大切にしています。
 
「例えばCDJは代々、CDやUSBメモリ、SDカードなどの挿入口が暗い中でもわかるようにメディアの近くにライトがありました。実体がないクラウドライブラリをCDJが読み込むときに、空から曲が降ってくるイメージで選曲する画面付近にメディアを象徴するライトを置いています。USBメモリ等にもある機能で、DJ個人個人のメディアがわかるようにライトには好みの色をつけることができるのですが、CDJ-3000Xでは選曲するつまみの輪が白く光る箇所にこの機能(デバイスカラー)を割り当てています。そうした純粋に機能のみに関わる提案はこれまでデザインの側からあまり言わなかったようなやり方ですね」(蔵本)
 

▲CDJ-2000のCD挿入口。

 

▲CDJ-3000Xの選曲つまみ。

先ほどの話にもあったように、CDJ-3000Xが市場およびユーザーに浸透するのにはしばらくの時間が必要であり、体験してみた現場のリアルな声はこれから本格的に届くでしょう。そしてその声を受けてCDJ-3000Xはさらなる進化を遂げるとともに、その進化はAlphaThetaブランドの確立にも繋がります。
 
「CDJというプロダクトはAlphaThetaブランドやクラブカルチャーをあまり知らない人も見たことはあるぐらいのアイコンだと思いますので、デザインは奇をてらわないことや、安心安全であることが重要。先代までをリスペクトした上で、継承しながら進化していくことが大切だと思います」(山本)
 
「我々は単にDJ機材メーカーというだけでなく、それらを通じてハッピーな現場を作れれば嬉しいですし、そこで生まれたカルチャーでみんなが踊れたら良い。先日この3人も行った「Rainbow Disco Club(レインボーディスコクラブ) 2026」でCDJ-3000Xが使われていたのですが、いいフロアでしたね。ああいう場がどんどん生まれてほしい」(蔵本)
 

photo by Masanori Naruse

 
「海外で自分の好きなアーティストがCDJ-3000Xを使っていたらうれしいですし、異国の地で“こんなところにいたのか”という不思議な気持ちになります。そういう意味でもインフラだと思いますし、20年後や30年後でも、時代を経ても受け継がれていくプロダクトになっていってほしいです」(三笠)
 


後編で語られたのは、CDJ-3000Xというプロダクトが完成に至るまでの、一筋縄ではいかない思考と選択の積み重ねでした。新しいデザインを採用するか、あえてしないか。その判断のひとつひとつに共通していたのは、「現場でどう使われるか」「長い時間をかけて信頼されるか」という視点です。CDJ-3000Xは、目新しさで驚かせるプロダクトではありません。むしろ変化のスピードが速い時代において、安心して立ち戻れる“足場”を更新する存在だと言えるでしょう。CDJ-3000Xがこれからどんな現場を支え、音楽体験を生んでいくのか。その時間の先にこそ、このプロダクトの真の完成形があるのだと思います。
 

Photo:後藤 薫
Interview&Text:RASCAL(NaNo.works)

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